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都築由浩
SFやらミステリやらホラーやらをライトノベルジャンルで書いている作家。
コミック原作・編集デザインなどその他さまざまな職業を兼業する。
クルマ・R/Cカー・自転車・ホビーロボットなど多趣味で、それらの道具や仕事の資料が散らばる自室が常にゴミ箱のような様相を呈していることから、巻末に『9畳のゴミ箱より』と記する。
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2008(C) Yoshihiro Tsuduki
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自炊と自炊代行と著作権法
「人気作家数人が自炊代行業者を訴える」というニュースが流れて以来、あちこちでこの話題を見かけます。的外れな話が多く見受けられ、「自炊代行業がなぜダメなのか」という点がどんどんぼやけていくので、何度かにわけて「日本の電子書籍市場」と「自炊と自炊代行と著作権法」について書こうと思いました。
 今回は後者「自炊と自炊代行と著作権法」の話です。

 最初にはっきりさせておきたいのは、私は電子書籍に関しては積極的に勧めて欲しいと思っていますし、本を買った読者が個人的に行う「自炊」に関してはまったく問題ないしいいことだと思っています。自炊代行業も、きちんと行われるのなら便利で良いサービスだと思います。ただし現状では自炊代行業は弊害が大きいし違法でもあると思っています。(違法かどうかは最終的には裁判で争うことなので、ここでは「私は違法だと思う」という表現を使います)
 それと「自炊代行業は違法である」というのと「自炊はダメ」というのとはまったく別の問題です。ネット上の多くの意見は、ここを混同しているから的外れになってしまっているように思います。一般論として「商業的に、不特定多数を相手に、有料で」行う行為と「個人的に、自分自身/家族/親しい友人間で、無償で」行う行為とは区別して論じるはずです。それをどうして「自炊代行業」と「自炊」に関して同一であるかのように論じるのか、そこにはなにか論者の偏った意図を感じるほどです。

 というわけで最初に書きましたとおり、今回は「自炊代行業はなぜダメなのか」という話を、▽続きの下に。

 まず、自炊代行業のシステムを確認しておきましょう。
 業者は、ユーザーから元本を預かって、その元本を裁断して。1ページずつスキャンし、何らかの電子データにして、ユーザーに渡します。この手間に対して料金を受け取るわけです。
 法的にこの行為のどこに問題があるかというと、著作権法第五款第三十条のこの一文にその根拠があります。
(私的使用のための複製)
第三十条  著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

 このあとに三つの「次に掲げる場合」が書かれているわけですが、そこはここでは関係ありません。この本文に「その使用する者が複製することができる」とわざわざ書いてあるわけです。私的利用の複製であっても、業者に委託することはできないと解釈できます。
 私が「現状では自炊代行業は違法だと思う」というのは、このためです。

 さて法律にはこうあるわけですが、これだけなら「個人がやろうが業者がやろうが一緒だろう。そんなことで訴えるなよ」と思うことでしょう。
 しかし、自炊代行業には大きな弊害があるのです。(これも「現状では」という但し書き付きで)
 問題点は以下の二つ。
・自炊代行業者が、ユーザーから送られてきた元本のスキャンデータを、そのままバックアップとして保存する。
・スキャンするために裁断された元本のその後の処理。
 このどちらもが「1冊の元本から作られた電子データが無限に、不特定多数に拡散する可能性」を含んでいます。

 前者「自炊代行業者が、ユーザーから送られてきた元本のスキャンデータを、そのままバックアップとして保存する」に関して言えば、よくある情報流出でネット上にばらまかれてしまうことも考えられますし、悪質な業者ならそのものを「電子書籍」として販売することも考えられるでしょう。
 後者「スキャンするために裁断された元本のその後の処理」に関して言えば、現に大手オークションサイトに「自炊用裁断済み書籍」が多く出品されていることを見ても明らかで、1冊の本が不特定多数の手を渡りながら無限の電子書籍に化けていっているわけです。(そして現状これを止める法律は現在たぶんありません)以前話題になった自炊ショップ「自炊の森」もこの手で、裁断済みの本を店に並べてスキャンさせていたわけですから、この問題は看過できません。

 今回の作家さんたちの訴訟は、こうした「1冊の元本から作られた電子データが無限に、不特定多数に拡散する」ことを防ぐために起こされたものだと、私は解釈しています。

 では、理想的にはどうするべきか。あくまで理想論として、私の考えを書いて、この項を終わっておきます。
 前に上げた第三十条の条文を見直して、スキャン代行業者も合法にする。
 ただし同時に「スキャンしたデータのバックアップを保存することを禁止する」「スキャンのために裁断した元本はユーザーに返送するか、シュレッダー処理する」「(業者・個人を問わず)裁断済みの本の転売を禁止する」の三つを(たぶん著作権法とは別の場所に)罰則付きで規定し、1冊の元本から無限に電子データが拡散することを防ぐ。
 というものです。
 こうすれば、自分の蔵書を自炊代行業者に送って電子化してもらうことも、安心してできるようになるんじゃないでしょうか。
| https://blog.tsuduki.com/index.php?e=342 |
| お仕事(小説/SF) | 04:25 AM | comments (2) | trackback (x) |
古本屋というのはあれはあれで必要なものなんですよ。本来は、マンガや文庫本のような大量生産本を扱うのではなくて、少部数で高価な専門書/学術書/全集とかを主に扱うべき業種だと思いますが。
私個人としては、古本屋でいっぱい本を買ってきた身として、あの業種を叩く気にはなれないです。近年の、マンガ本を大量に在庫する業態には違和感は感じていますけど。
| 都築由浩 | EMAIL | URL | 2011/12/27 01:13 PM | RKE8.DyI |

この話題で歯がゆいのは、「権利者への正しい還元の仕組み」が存在しない中古本流通について、当の権利者たちが今まで放置してきたことです。
およそ労働で収入を得ている社会人ならば、書籍でも音源でもゲームでも、作者に金が落ちないような購入手段は避けてしかるべきと考える私にとって、一冊が二冊に増えるのも、一冊が二人に買い求められるのも、それを承知で中古流通業者へ売却するのも、等しく不正義に思えます。

適法違法については裁判に存分に議論してもらえればいい。よくぞ立ったと拍手したいくらいです。ただその前に、スキャン代行を悪しざまに罵ったのと同じくらいの声で、中古本流通業者を罵るのが筋ではないか、と思えてなりません。
| 電子透かし義務化派 | EMAIL | URL | 2011/12/27 07:54 AM | J/PE9ZBo |


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